わかった。
 
 
 
■ 前に、いわゆる同伴旅館のことを書いたけれども、すこし前、様々な趣向をこらすのが流行った。
 カラオケがあったり、プールがあったり、パソコンが置いてあったりする。
 半分にちょん切られたドイツ製の赤い車の中に掛け布団があって、運転席の側にはいくつものスイッチがついている。押すと、あちこちが点いたり、時々動いたりする。
 車で来て、また車にのるということの意味がよく分からなかった。
 ハンドルまで付けなくても良いだろうと思った。
 
 
 
■ 大抵のものは揃っていても、ひとつだけ無いものがあった。
 それは、深夜、ヤキソバを作ろうとした場合の、いわゆる台所である。
 例えば、女性が男性の部屋にきて、台所で何かを言うことがある。
「どうしてここにこれがあるの。誰がきたの。まったくもう、なんでこういう風にしまうのよっ」
 ここでオフクロの名前を出す訳にもゆかない。
 暫く何事かをやっていて、覗いてみると見事に整頓されている。
 ここで喜ぶのはまだ早い。
 
 
 
■ 煙草などを吸っていて、時間をやりすごす。
 できるだけ深刻な顔をしていた方が無難であるが、それは惚けた顔をしていると怒られるからであって、それ以上の効果はない。
 ひととおり通り過ぎたら、言葉の切れ目の按配を探る。
 何処かと言われても、それは経験かなあ。 
 次の台詞を捜しているような気配があったらひとまずチャンスである。
 ただし、余計な事を言ってはいけない。
「わかった」
 と、いうのが妥当ダロウ。
 
 
 
■ しくじるとこうなる。
「何がわかったの。だいたいねえ、あなたは始めっから」
 と、循環構造になる。これは長い。
 89年10月3日午後7時の会話までが引用される。
 次に言う言葉は、
「わるかった」
 が、良いダロウ。
 暫くそれで様子をみたまえ。
 あとは知らない。